大学院

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授業レポート④|「ビジネスプラン」亀川 雅人 教授/平田 博紀 教授/八木 麻衣子 教授

2025.10.16

こんにちは!2024年度秋期入学生の青木志乃です。

私は現在、社会福祉法人 法人事務局の事務長兼理事として、組織運営やマネジメントに関わっています。本記事では、チームメンバーがそれぞれの専門性をもとに協働し、福祉医療の課題に向き合い、制度の枠を超えて新規事業を考える「ビジネスプラン」(亀川雅人教授/平田博紀教授/八木麻衣子教授)の授業についてご紹介します。先生方のご指導のもと、院生同士が学びあえることが本研究科の大きな魅力です。

■「ビジネスプラン」とは

研究科では、1年次必修科目として「ビジネスプラン」を開講しています。この授業は、福祉医療の現場で直面する課題をテーマに、経営学という共通言語を基盤としながら、事業をビジネスモデルとして立案・発表する実践的なカリキュラムです。

授業では、まず教員からデータ分析手法や事業計画書の作成方法についてレクチャーを受けます。その後、45名でチームを組み、各メンバーの知識や実務経験を活かしながらディスカッションを重ね、事業の方向性を決定します。

チームごとにマーケット調査、販売計画、事業収支、リスク分析などを行い、現実的かつ実現可能な事業計画へとまとめあげていきます。授業の最終日には、各チームが完成させたビジネスモデルを発表します。限られた時間の中で培った企画力・分析力・プレゼンテーション力を競い合う場であり、院生にとって大きな成長の機会となります。

■ 在留外国人の増加から生まれた家族支援への着眼点

わたしたちのチームは、助産師であるチームメンバーが行っている産後ケアをベースに、日本で生活する中華系の家族を対象に中国式で一般的な滞在型の産後ケアを提供する事業を企画しました。
 このテーマを選んだ背景には、第一に在留外国人数が過去最高になっている現在、外国で夫婦のみで子育てをしていかなくてはならない家庭も増加しており、医療保健福祉のサービスの対象者としても増加していることがあります。第二に、子育てにおける父親の役割は以前より多様になってきており、男性の育児休業率は13%と徐々に上昇していますが、自治体の産後ケアでは、母と子どもが中心であり、父親への育児支援が不十分なことです。
このふたつの社会的な状況を背景に、特に中国や台湾から来日し日本で出産、子育てを行う家庭を対象に家族全体の育児支援を行い、核家族における子育ての負担を軽減できるように専門職ができる支援はなにか、という多職種で構成されたチーム内での議論がありました。

■ 壁を乗り越え実現可能性を追求した事業構想

実は当初は、産後ケアの専門職の育成が求められるのではないかという問題意識から、産後ケア先進国である中国や台湾への研修及び人材育成事業のプランを検討しましたが、産後ケア市場の規模や費用等の具体的な検討を進める過程で実現可能性が低いのではないかという壁にぶつかり、事業の内容を見直しました。この見直しのプロセス自体が学びに満ちたものとなりました。
 調べていくなかで、中国式の産後ケア「坐月子」では1ヶ月程度滞在し、母体は身体の回復を優先しながら子どもとのかかわり方を身につけられることや、日本でも都市部を中心に滞在型の産後ケアが少しずつ普及していることなどが明らかになりました。
 外国出身で日本に滞在し夫婦のみで子どもを出産し育児をする家族は今後も増加することは確実であり、父親への育児支援は日本人家庭においても重要度を増しています。実際に中国や台湾出身の方は母国に帰国して出産や充実した産後ケアをうけることも多いとのことですが、同様の支援を日本国内で提供できるならば、移動による母体の負担や経済的負担も軽減されます。また母子だけではなく家族全体を対象とする産後ケアが普及することで、父親に対する育児支援が充実することも期待できます。


■ 多職種連携がもたらした新たな視点と学び

事業計画を検討する過程では、それぞれの専門性を背景に活発な意見交換が行われました。調査や資料作成の役割分担等もお互いの強みを活かして積極的に取り組み、授業外でもオンラインやチャットで打ち合わせを行いました。チームメンバーから提示された意見や経験、意見交換を重ねた時間自体が何よりの学びとなりました。
日常的には制度に基づく事業運営を求められますが、このように制度の枠をとりはらい社会で求められる課題を解決するための新たな事業を検討する貴重な機会をいただきありがとうございました。

 

この記事を書いた人

青木 志乃(あおき しの) さん 
社会福祉法人勤務 | 社会福祉士 | 法人事務局管理財務担当事務長・理事(2024年度 秋期入学)

在宅介護支援センターの相談員や施設事務職を経て、現在は法人全体の財務管理、広報、情報管理、ICT促進等を担当しています。授業で学んだ理論を現実に当てはめて理解し、目の前の問題を理論により俯瞰して捉えなおしながら、日々の実務にあたっています。