国際交流センター

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文京学院大学開学 30周年記念国際シンポジウム報告

2022.01.12

文京学院大学経営学部主催

2021年度

「文京学院大学開学 30周年記念国際シンポジウム報告書」

ポストCOVID-19時代におけるグローバル経済・経営と大学教育のあり方

                国際交流委員会委員長・経営学部教授 中島真澄

趣 旨:当該シンポジウムは、第1に、文京学院大学経営学部のパートナー校との学術交流を継続・促進することを目的とし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の下でも、パートナー校間の学術交流がさらに発展することを期待する。第2に、本シンポジウムは、海外大学の研究者とCOVID-19の課題をともに議論することを通して学術的なコラボレーションを考える機会とし、当該機会により、研究と教育の国際交流を通したグローバルなパートナー関係を探求する。

基調講演者の略歴

□ポール・スカーブロウ博士は、原価計算と管理会計科目を担当。バージニア工科大学で博士号、トリニティ大学でMBA、テキサス大学エルパソ校で学士号を取得。研究テーマは、コスト削減と企業文化がコスト削減手法の利用に与える影響。グッドマンでは、学部プログラム委員会、研究助成金評価委員会、CGA ガバナンス審議会のメンバーを務めている。また、Asia-Pacific Management Accounting Associationの理事および編集者も務めている。ボストン大学およびベントレー・カレッジで教鞭をとった経験を持つ。また、リンネウス大学(スウェーデン・ヴェクショー)および早稲田大学(日本・東京)の客員教授経験も有する。また、Journal of Business Ethics、The Accounting Forum、Critical Perspectives in Accounting、The Journal of Accounting and Computersなどの雑誌の査読を定期的に担当。

□デイビッド・A・ジバート教授は、ケンタッキー大学フォン・オールメン・スクール・オブ・アカウンタンシーのPwC教授として奉職している。それ以前は、イリノイ大学、インディアナ大学、ノートルダム大学で客員教授を務めていた。イリノイ大学では、国立スーパーコンピューティング・アプリケーション・センターの研究員を務めていた。研究テーマは、会計データ、経営者の行動、監査人の行動、企業活動などを用いた予測モデリング。現在の研究テーマは、シミュレーション科学を用いた会計理論の研究。Journal of Accounting Research、The Accounting Review、Journal of the American Statistical Association、Contemporary Accounting Research、Organizational Behavior and Human Decision Processesなど、数多くの雑誌に論文を公刊。ジバート教授は、オーロラ大学で学士号を、北イリノイ大学で修士号を、ミシガン州立大学で博士号を取得した。

□クリスト・カルナ教授は、ミシガン大学で会計学の博士号を取得。ミシガン大学、カリフォルニア大学アーバイン校、ヒューストン大学、南カリフォルニア大学などの一流大学で教鞭をとってきた。また、モナッシュ大学では、学部長賞(PRME Education Excellence Award)とPurple Letter for Teaching Excellenceを受賞。研究テーマは、組織文化とガバナンス。モナシュ大学を拠点とする価値観に基づくガバナンスのための国際コンソーシアム(ICVG)の創設者であり、コーディネーターを務める。主要な学術誌に論文を発表し、世界中の主要大学で発表された研究は賞賛されている。また、Journal of International Accounting Researchの編集委員を務めるほか、一流ジャーナルの査読者や一流カンファレンスの討論者としても活躍。KPMG、Telstra、Ferrier Hodgson & Co.で監査、企業倒産、投資銀行業務に従事した経験を持つ。

□シティ・ザレハ・アブダル・ラジド教授は、会計学博士、修士、学士の学位を有し、現在 マレーシア工科大学(UTM)のアズマン・ハシム国際ビジネススクールの会計学准教授。マレーシア会計士協会(Malaysian Institute of Accountants)の準会員、英国会計ファイナンス協会(British Accounting and Finance Association)の会員でもある。また、Chartered Institute of Management Accountant (CIMA) Center of Excellence Southeast Asiaの研究パネリストも務めている。研究活動にも積極的に取り組んでおり、これまでに9つの研究プロジェクトを主導し、多くの研究プロジェクトのメンバーとして活躍している。現在までに、雑誌、会議録、技術報告書などで、100本以上の記事や研究論文を執筆・共著している。研究テーマは、管理会計、リスクマネジメント、パフォーマンスマネジメント、コーポレートガバナンス。現在、マレーシア工科大学クアラルンプール校大学院副研究科長も務めている。

□絹川直良教授は、文京学院大学経営学部教授・前学部長。国際通貨研究所(IIMA)客員研究員(2007年~現在)。1996年から2007年にかけて、IIMAで、財務省やASEAN事務局などから依頼され、金融市場インフラや地域通貨協力に関する様々な研究・技術支援プロジェクトに従事。その中には、東アジアにおける地域債券市場や地域決済仲介機関の開発に関する提案も含まれている。また、地域金融協力に関するいくつかの報告書を共同編集した。本学では、外国為替リスク管理システムと企業の財務リスク管理ツールを担当している。

□モハメド・エルガマル博士は、カタール大学のファイナンス准教授であり、それ以前は、ウェストミンスター大学、アバディーン大学、イーストロンドン大学、メヌーフィア大学に奉職。また、Commercial International Bankでの勤務経験もある。エルガマル博士は、マクロ経済変数に特に焦点を合わせた期待リターンモデリングの分野で活発な研究を行い、一流の国際学術誌に多くの論文を発表。また、エジプト政府、欧州経済研究評議会、NPRP、QNRFやカタール大学からの資金提供によるUREPなど、権威ある機関から多くの助成金を受けている。また、英国ロンドンにあるWestminster Managerial and Education SolutionのCEOも務めている。また、Cogent of Finance and Economics、Sage Open Journal、Asian Pacific Management Accounting Journalの編集委員を務めている。また、アジア太平洋管理会計協会(APMAA)の会長代行およびAPMAAドーハ2019年カンファレンスの大会委員長も務めた。

□中島真澄は、文京学院大学経営学部教授であり、文京学院大学大学院経営学研究科専攻主任を務めている。また、明治大学経営学部および明治大学大学院経営学研究科の兼任講師も務める。最近では、マラ工科大学およびマレーシア工科大学の博士プログラム審査委員会の外部審査員を務めている。日本の南山大学で博士号と修士号を取得。アーニングス・マネジメント、会計不正、フォレンジック会計分野で活発な研究活動を行っている。2012年より科学研究費補助金を獲得し、2017年には科研費審査委員として表彰された。Managerial Auditing Journal、Journal of Forensic and Investigative Accounting、Research on Professional Responsibility and Ethics in Accountingなどの国際査読ジャーナルで研究を発表している。現在、アジア太平洋管理会計協会の常任理事、日本会計経済学会(AEAJ)の理事を務めている。

■プログラム

2021年12月11日(土)12:30pm

会場:バーチャルZOOM

12:30    開会のセレモニー             

開会のご挨拶  櫻井 隆     文京学院大学学長・教授

歓迎のご挨拶  島田 昌和    学校法人文京学園理事長・教授

  国際シンポジウム                             

12:50-13:00 解 題    中島 真澄   国際交流委員会委員長・文京学院大学教授

   「経営学領域に関するCOVID-19の研究動向を通して得られた知見」

13:00₋13:30 第1基調講演:ブロック大学(カナダ)D.ポール・スカーブロウ教授 

「パンデミックから学ぶ教室の再構築:行動と観察の違いがもたらす影響」

13:30₋14:00 第2基調講演:ケンタッキー大学フォン・オールメン・スクール・オブ・アカウンタンシー、デイビッド・A・ジバート教授(米国)

「COVID後の環境における学生と教員の交流から学ぶ機会」

14:00₋14:30 第3基調講演:クリスト・カルナ教授(モナシュ大学)(オーストラリア)

「ポスト・COVID-19時代のグローバル経済、経営、大学教育における価値観に基づくアプローチに向けて」

14:40₋15:10 第4基調講演:シティ・ザレハ・アブダル・ラジド教授(マレーシア工科大学)(マレーシア) 

「COVID-19が管理会計の会計専門職に与える影響」

15:10₋15:40 第5基調講演:文京学院大学 絹川直良教授(日本)

「COVID-19とその新興経済国・金融市場への影響」

15:40₋16:10 第6基調講演:モハメド・エルガマル教授(カタール大学)(カタール)

「COVID-19パンデミックの前後における世界の金融市場間の価格とボラティリティーのスピルオーバー」

16:10-16:20 閉会セレモニー                                 

閉会のご挨拶  中島真澄       

「大学開学30周年記念 ヴァーチャル国際シンポジウム」 結果概要 

                                               

■テーマ  :ポストCOVID-19時代におけるグローバル経済・経営と大学教育のあり方

■主催   :文京学院大学経営学部国際交流委員会

■場所   :すべてオンライン(Zoom)で実施。

■開催日時 :2021年12月11日(土)12時30分~16時20分

■参加対象者:教職員、学生、教育関係者などすべての方

■参加費  :無料

■参加者  :48名(申込み52名)

 文京学院大学開学30周年記念国際シンポジウムが、2021年12月11日(土)に48名の参加者を迎えて開催された。まず、開会のセレモニーにて、本学学長櫻井隆教授から「本シンポジウムでは、COVID-19の対応策からどのようなことを学び、ポストCOVID-19に向けてまだ解明できていない点についてともに解明していきたいと考え、このようなテーマとさせていただいた。すでに協定校となっている大学もあるが、まだ協定が締結されていない大学とは、今後協定を締結していきたいと考えている。本シンポジウムをきっかけに交流を深めて、研究・教育に成果を上げていきたい」と開会のご挨拶があった。

 続いて、文京学園理事長島田昌和教授から、「コロナ禍で止まってしまった国際交流を復活させ、大学全体のグローバル化をより一層めざしたい。教員が研究や教育で積極的にグローバル化に取り組んでいる姿勢を学生に模範として示し、鼓舞していきたいと考え、その一環として本シンポジウムを用意した。基調講演者の先生方にご協力いただき、開催できたことを喜び、ありがたく思っている。渋沢栄一が開明的な国際通であったように、本シンポジウムを通して海外の大学の関係者の方とCOVID-19をともに考え、ともに乗り越えていき、そのプロセスを通して国際的な協働と共生を考えている。これを機会に私どもと是非研究と教育の交流をしていただき、グローバルなパートナーとなっていただけるよう願っている」と歓迎のご挨拶があった。

 本シンポジウムの基調講演の先立ち、国際交流委員会委員長・経営学部教授の中島真澄から解題があった。「COVID-19は、全世界の人々の生活、教育、経済、経営活動、医療、政策などあらゆる側面に大きな影響をもたらした。本解題では、パンデミックの2020年1月から2021年9月までを範囲とし、この間にCOVID-19に関連するどのような研究が蓄積されたのかを明らかにする。本研究は、ビジネスおよびマネジメント分野におけるCOVID-19関連文献をレビューし、類型化し、現時点において何が解明されたのか、そして何がまだ解決していないかを明らかにする。サイエンス・マッピング・アプローチにより、危機管理、人的資源、サプライチェーン、安全保障・セキュリティ、教育という5つの研究テーマが浮かび上がり、5つの主要な研究テーマを特定できた。第1、第2基調講演は、クラスター「教育」に関するもの、第3基調講演では、ポストCOVID-19の時代にどのように生きていくべきかという提言。第4基調講演は、クラスター「テクノロジー」に関するもので、第5および第6基調講演は、COVID-19が経済に与える影響を検証する実証的な研究で、これまでにはなかったものである。6名の著名な基調講演者の方々によって、今後の研究の方向性が強化されることと思われる」と述べた。

 当日の基調講演者は、以下の方々であった。第1基調講演者Prof. Dr. D. Paul Scarbrough, Brock University (Canada), 第2基調講演者Prof. Dr. David A. Ziebart, Von Allmen, School of Accountancy (University of Kentucky) (U.S.), 第3基調講演者Prof. Dr. Christo Karuna, Monash University (Australia), 第4基調講演者Assoc. Prof. Dr. Siti Zaleha Abdul Rasid, Universiti Teknologi Malaysia (Malaysia), 第5基調講演者 絹川直良教授、文京学院大学 (日本), 第6基調講演者Prof. Dr. Mohammed Elgammal, Qatar University (Qatar)。

 Paul Scarbrough教授は、「COVID-19により、オンライン授業における試験の役割を考察する機会が与えられた。オンライン授業における試験では、弓道と野球の事例に基づいて、修得力向上のためにPDCAプロセスにおける、反省と行動の繰り返し、すなわち、思考と行動の両方が重要であることをわれわれは学ぶことができた」と提示した。 

 David A. Ziebart 教授は、「COVID後の世界において、大学が教育や研究を向上させるために国際交流をどのように活用できるかが重要である。国際交流は、学生にとっては、多様な環境での交流を通して自国とは異なる視点でのビジネス活動を学ぶ実践的な機会となり、教員にとっても、学生の多様性を高める機会となる。COVIDショックは、グローバルビジネスの影響を理解する機会となったが、文化的、政府的、社会的、政治的、または実施上の違いにより、差異が存在することが予想されるプロジェクトに焦点を合わせ、なぜ結果が異なるのかなぜ結果が類似しているのかを理解できることがわれわれにとって重要となる」と提示した。

 Christo Karuna 教授は、「パンデミック後には、マルチステークホルダーを中心とした価値観共有型のアプローチが有効である。すなわち、目的を持った行動を促すことで、社会的・経済的な福祉を向上させるために従事する機関において、自分の価値観に基づいて行動することで、個人や社会の能力を最大限に引き出すことができる。COVID-19後は、目的・ビジョン・価値観を共有した上で、主要なステークホルダーが協力していくことが重要な前進となる」ことを示した。

 Siti Zaleha Abdul Rasid教授は、「COVID-19パンデミックによって加速するデジタル・トランスフォーメーションにおいて、変革の担い手は管理会計士である。管理会計士は、持続的なビジネスの価値と成長のための洞察と分析を提供し、組織が十分な情報に基づいた意思決定を行うための鍵となりうる。そのため、会計のカリキュラムを見直し、デジタル技術と分析技術を取り入れるとともに、予測分析、デジタル・アクメンツなどのトピック、サイバーセキュリティ、ITガバナンス、ITリスクとコントロールなどのトピックを盛り込む必要がある」と提言した。

 絹川直良教授は、「COVID-19感染拡大により、2020年は多くの国でGDP成長率は-となった。2021年前半にはいったん経済は急回復したが、ワクチン供給不足は解消せず、半ばより変異種の蔓延拡大に見舞われた。グローバルな供給網の機能不全やエネルギー価格の上昇も加わり、供給面からくるインフレ懸念が強まる中、2013年のテーパー・タントラムのように米国主導の金融政策変更のもたらすリスクが意識されている。東アジア各国はアジア通貨危機以降さまざまな対策を取ってきており不安はないが、経済回復の程度が国によって異なる点を突いて、一部新興国からの予想外の短期資金の流出を招く可能性が残っている。」と指摘した。

 Mohammed Elgammal教授は、COVID-19発生前と発生中の世界の株式市場、金市場、エネルギー市場の関係をリターン(投資収益)とボラティリティ(株価の変動率)の両レベルで検証した研究を報告し、「リターンの拡散(スピルオーバー)効果については、株式市場とエネルギー市場、金市場とエネルギー市場の両方向に、また、金市場から株式市場への一方方向のリターンの伝達効果が発見されたこと、パンデミックでは、株式市場と金市場の間に双方向のリターンの拡散、エネルギー・リターンから株式と金のリターンへの一方向の拡散が見られたこと、さらに、ショックやボラティリティーの拡散は、COVID-19の発生後に顕著であった」ことを提示した。

 なお、各基調講演の後にはQ&Aが設けられており、登壇者と参加者との間で活発な議論が行われ、COVID-19関連の課題についてともに考察でき、大変有意義なシンポジウムとなった。

 閉会セレモニーでは、 中島が「本シンポジウムは、基調講演者による有益な示唆を通して、PDCAの思考方法、意思決定過程の人工的フレームワーク、デジタル・スキル、価値に基づくアプローチ、新興経済からの資本流入、株式、金、エネルギー間における劇的な相互関係性など、パンデミックに伴う当該国際問題をともに検討する機会を与えてくれた。したがって、このような学術的な国際交流は、教育および研究を向上させるものとなりうるであろう」と閉会の挨拶をし、本シンポジウムは盛会のうちに幕を閉じた。    

以上